これがホンハイ流スピード経営だ!シャープ蘇らせた驚異のコスト削減と販売力の真髄 – BUSINESS INSIDER JAPAN



台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収されて、わずか1年4カ月で東証2部から1部に復帰したシャープ。ホンハイの総帥・郭台銘(テリー・ゴウ)会長の懐刀で、社長としてシャープに送り込まれた戴正呉氏がいかに再生に向け奔走したのか。台湾流スピード経営の真髄を解説する

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短期間で東証1部に復帰し、復活を印象付けたシャープ。

REUTERS/Toru Hanai

「取締役会議長、経営戦略会議議長、オペレーション決裁のうちオペレーション決裁を新社長に任せる」

戴氏は東証1部指定替えの会見で、こう語り周囲を驚かせた。再建をアピールする場で、社内外から共同CEOを招き、早々と日常の経営から一歩退くことを明らかにしたからだ。

金型の新規作成コストも槍玉に

これこそがまさにスピード感の源泉である。振り返れば戴氏は、シャープに乗り込むや否や膨らみがちだったコスト構造をいち早く分析。合理的でないと判断したものについては苛烈なコスト削減を実施していった。

例えば、事務関連では遠慮なくオフィスレンタル契約の見直しに着手。シャープの命綱である商品開発に関しても、金型の新規作製を表す「開模手続きを見直した」(戴氏)。これにかかるコストは、開発費の中でとびきり高い。なのにホンハイが経営参加するまでは「好き勝手に開模していたこところがあった」(同)。金型の作製は、受託製造で世界を席巻してきたホンハイがホンハイたる経営の根幹ともいえる。シャープはそこで非情ともいえる洗礼を受けたのだ。

トップラインも大幅に改善した。売上高に関しては、ホンハイがシャープブランドの製品、特にテレビを売りまくる体制を築きつつある。中国の調査会社、シグマインテルによると、ホンハイはテレビの代理製造台数で2017年10月だけで前年同月比2倍増の220万台と圧倒的なトップに立っている(シャープのほかソニー、インフォカスでのブランドを含む)。

ホンハイは攻勢の手を休めない。2017年11月には、中国最大手の家電量販店チェーン、蘇寧(スニン)と大々的な提携をすると発表した。詳細はまだ明らかにされていないが、小売額ベースで3年間で500億人民元(約8500億円)に達するもので、超高精細の8Kの映像機器・サービスやAR(拡張現実)、5G通信に関するものが含まれているという。

組織運営上はシャープを厚遇

シャープ再建において意外だったのは、社長を戴氏が務めたことだった。戴氏と筆者は2006年以降、幾度も面談しており、高い力量をうかがい知っていた。それだけにいきなり戴氏が社長に就くのではなく、シャープの日本人生え抜きにやらせると思っていた。再建は人に恨まれがちな汚れ役だからであり、ホンハイも有能な戴氏をシャープ専従にさせたくないはずだと思ったからだ。

しかし実際には、「自分が良い家に住んでもお客は喜ばない」とばかりに戴氏は、古めのシャープ社員寮に住み込んで再建に汗を流した。

2017年6月に筆者の質問に応える戴氏(右)

Tomohiro Otsuki

ほとんど認知されていないが、ホンハイはシャープを組織運営上厚遇した。ホンハイグループは13のサブグループ(次集団)に分割統治されているが、シャープは特定のサブグループに属さない。故にいかなるサブグループ長(次集団総裁)の命令も聞かなくていい。こんな扱いを受ける組織は、iPhoneで巨額の売り上げを誇る「CAA産品事業群」くらいである。こうした実態があったからこそ、郭氏や戴氏は繰り返し「われわれはシャープを買収したのではなく、シャープに投資した」と述べていた。

ボーナス格差は拡大か

シャープがこのまま軌道に乗って成長すれば、ホンハイは自らの強みをさらに移植していくだろう。その一つとして報酬制度がありそうだ。

シャープは2018年6月支給のボーナスから、年間1カ月~8カ月分と最大で8倍の個人差を付けている。これまでの個人差が1.5倍だったことに比べれば大きいが、ホンハイが台湾本社で運用してきたものとはまだ違いがある。

台湾本社では年間のボーナスの額が、ボーナスを除く経常的な賃金を超えるという。具体的には2017年に支給を決めたボーナスの一種「員工分紅」は、従業員(約7300人)平均で143万台湾ドル(約529万円)。この額は台湾の大企業における経常的な賃金水準よりもはるかに高い。もちろん、信賞必罰が徹底されており、ホンハイの従業員皆がこの金額をもらえるわけではないが、競争の原動力となっているのは間違いない。

シャープは革新技術を駆使した電卓を次々に世に送り出し、液晶技術で世界をリードするなど、競争の局面を大きく変えてきた会社である。そこにホンハイ流の原価低減や販売術が加わったことで驚くべきスピードで再建を遂げた。日台の融合によってどのような化学変化を見せるのか、さらなる飛躍が楽しみだ。


大槻 智洋(おおつき・ともひろ):TMR台北科技代表。1998年CSKベンチャーキャピタルで投資や経営支援に従事した後、2001年「日経エレクトロニクス」記者になり、カメラ技術やEMS/ODM産業の分析記事で高評価を受ける。2010年台湾に移住、2011年TMR台北科技設立。コンサルティング会社や電子関連企業に調査サービスやコンサルティングを提供するほか、メディアに寄稿している。




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